こんにちは!UXシステム開発部の角田です。今年で入社5年目を迎えました。
入社当初はフロントエンドの改修や既存システムの保守を担当していましたが、最近はAIを活用した業務改善プロジェクトに挑戦させてもらえる機会が増えています。
「AIってすごいけど、結局業務改善にどう活かせるの?」と思う方もいるのではないでしょうか。
今回は、『みんなのブリーダー』において、子犬情報の紹介文や写真・動画を確認する“チェック業務”を、AIで自動化した事例をご紹介します。
この記事では、
– なぜ自動化に挑戦したのか
– どんな工夫をしたのか
– 実際にどのくらい効果があったのか
を、できるだけリアルにお伝えしていきます。
「AIを活用して業務改善したい」と考えている方にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。
「チェック業務」とは?

『みんなのブリーダー』では、全国のブリーダーさんと、子犬を家族に迎えたい方をつなぐために、日々たくさんの子犬情報が登録されています。
しかし、掲載内容に不備や不正が含まれていると、大きなトラブルにつながってしまいます。
そこで重要になるのが、事務局による“チェック業務”です。
チェック業務の中でも特に負担が大きいのが「子犬チェック」で、子犬の紹介文や写真・動画を確認し、規約違反や不適切な内容が含まれていないかを見極めています。
このチェック業務は日当たり約1,600件と非常に多く、ベテランの社員が対応しても1日2時間ほどを要します。
件数の多さに加え、常に高い集中力が求められるため、スタッフへの負担は非常に大きなものです。
- 件数が膨大で、手動チェックに毎日2時間かかる
- 集中力が求められ、スタッフの負担が大きい
- 人によって判断基準にばらつきが出やすい
こうした課題を背景に、「AIで自動化できないか?」と考えるようになり、まずは取り組みやすい「紹介文チェック」から検証をスタートしました。
技術スタックと環境
今回のプロジェクトでは、複雑な仕組みを使うことなく、必要最小限の技術で実装を行いました。
- ChatGPT API:子犬紹介文のチェックを自動で行うために活用
- 社内API(PHP):ChatGPT APIとの連携処理を実装
- 社内チャットツール:障害やエラーを自動通知
- プロンプトエンジニアリング:チェック精度を高めるための工夫
外部サービスに大きく依存せず、必要な機能はすべて社内で開発・運用しました。
こうした取り組みがスピーディーに進められるのは、開発から運用までを自分たちで回せる環境がシムネットにあるからこそ。
このスピード感は、当社ならではの大きな強みだと感じています。
プロンプト設計の試行錯誤
最初の失敗
最初は、「人間が確認している内容をそのままプロンプトに入力すればいいのでは?」と考えていました。ところが、結果は散々。AIはうまく判断できず、精度は3割程度とかなり低い状態でした。
ここでいう精度とは、「人間がNGとした内容を、AIも同じようにNGと判断できる割合」のこと。
単に当てずっぽうで一致しているかどうかではなく、人間と同じ判断基準でNGを検知できるかどうかが重要なポイントになります。
改善の方向性
そこで着目したのが、“情報の分解”という考え方でした。
人間は、たとえ複雑な条件でも直感的に判断できますが、AIは「複雑で曖昧な条件」を苦手とします。
そこで次のような工夫を重ねました。
- 大きな確認項目を、より細かい要素に分ける
- Yes/Noで答えられる問いに変える
- 曖昧さをなくし、シンプルな構造にする
リスク管理と実用化への道のり
偽陰性ゼロを目指して
AI導入にあたり重要だったのが、人間がNGとするものをAIが見逃してしまわないか、逆に人間がOKとするものをAIがNGとしてしまわないかという点です。
これは自動化を進める上で最も慎重に考えるべき部分でした。
シムネットではこれを、偽陰性・偽陽性という呼び方で整理しています。
- 偽陰性:本当は問題があるのに「問題なし」と判定されること
- 偽陽性:本当は問題ないのに「問題あり」と判定されること
偽陰性は重大な見落としにつながるため、ゼロを目指す必要があります。
一方で、多少の偽陽性(=人が再チェックすれば済むケース)は許容する方針としました。
このバランスをどう取るかが、現場で安心して使える仕組みづくりの鍵になります。
偽陰性ゼロを目指したプロンプト改善
予算の制約もあり、より強いモデルを使ったり、トークン数を大幅に増やしたりするのは難しい状況でした。
そのため、単にモデルを高性能なものに変えるだけではうまくいかず、プロンプトを磨く方向にシフトしました。
確認項目をどう分解すれば、AIが誤りなく判定できるのかを考えながら、試行錯誤を重ねた結果、最終的には約8割の精度を達成。
モデルの性能任せにせず、プロンプト設計を徹底的に調整したことが、成果につながったと感じています。
自動化による成果
実際に業務へ導入したところ、次のような効果が見られました。
- 1日あたりの作業時間を最大72分短縮(うち約48分がチェック工程の削減)
- 月換算では24.5時間分の削減に相当(おおよそ1人分の稼働時間)
現場スタッフからも、「作業が楽になった」といった声も寄せられており、数字に表れないメリットも大きかったと感じています。
成功の鍵は「偽陰性ゼロ」を目指すリスク管理
今回の取り組みが現場で受け入れられ、成功につながった最大のポイントは、「偽陰性(見逃し)を絶対に避ける」というリスク管理を徹底したことにあります。
AI自動化の目的はあくまで業務負担の軽減であり、サービスの信頼性を損なっては本末転倒です。そのため、AIが「問題あり」と過剰に判断してしまう『偽陽性』は、最終的に人が確認すれば良いと割り切ることにしました。
最も避けるべきなのは、「許されない見落とし」が発生すること。この安全性を最優先した設計思想こそが、現場が安心して使える仕組みの土台となったと感じています。
今後の展望

今回は「紹介文チェック」の自動化に取り組みましたが、次のステップでは画像チェックにも挑戦する予定です。
たとえば、掲載写真が規約に違反していないかをAIが一次確認できるようになれば、さらなる業務改善が期待できます。
また、シムネットではこの事例に限らず、AIやクラウド技術を活用した業務改善にも積極的に取り組んでいます。
「AIで実務を変えてみたい!」という方にとっては、きっとワクワクできる環境だと思います。
まとめ
AI活用というと、「先進的すぎて自分には関係ない」と感じる方もいるかもしれません。
でも実際には、ちょっとした工夫とスピーディーな内製開発で、日常業務を大きく変えることができます。
私自身、この取り組みを通じて、「AIで業務はもっと面白くできる」と強く実感しました。
もしこの記事を読んで「自分もやってみたい」と思った方がいれば、ぜひシムネットで一緒に挑戦しましょう!

